にんにくの最新研究 〜がん予防とにんにく〜

世界が注目する野菜の王様「にんにく」

世界が注目する野菜の王様「にんにく」

にんにくのがん予防効果は、今や世界中で知られるようになりましたが、その先駆けとなったのは1990年にアメリカ国立がん研究所(NCI)が発表した「デザイナーフーズ・プログラム」でした。これは、「がんを食事で防ぐ」という目的のためにアメリカ政府が進めた国家プロジェクトで、55〜69歳までの女性、約4万人を対象に5年間にわたって追跡調査を行い「がんの発生と食品の影響」を解析したものです。この「デザイナーフーズ・プログラム」では、127種類の食物が調査対象になりましたが、その頂点に立ったのが『にんにく』だったのです。

発表された結果も驚くべきものでした。週1回、にんにく料理を食べている人は、にんにく料理を食べていない人よりも、直腸がんにかかる確率が35%以上も低いというデータがはじき出されたのです。それを裏付けるかのように、韓国や中国東北部など、にんにくを頻繁に食べている地域では、がん患者が少ないという報告もあります。

この研究成果が発表されるや、アメリカではにんにくブームが巻き起こり、にんにくの消費量が3倍にも跳ねあがったそうです。そして世界中の科学者たちは、俄然にんにくの健康効果に注目し始めました。まさに、世界中がにんにくを「野菜の王様」であると認めた瞬間であったといえるでしょう。

がんと活性酸素の関係

がんと活性酸素の関係

近年、「活性酸素」という言葉をテレビなどで耳にすることが多くなりました。活性酸素とは、通常の酸素よりも激しい反応性を持つ酸素のことですが、実は、がんの発生と非常に関係が深い物質なのです。人間は食物を摂取すると栄養分を酸素で燃やし、水と化学エネルギーに変換して生命を維持しています。この代謝過程で発生するのが活性酸素です。私たちが呼吸し、体内で使用される酸素のうち約2%は活性酸素になるといわれています。活性酸素は本来、ウイルスや病原菌を殺したり老廃物を分解したりするなど、体にとって有益な働きをしている物質です。しかし、活性酸素が過剰に発生すると逆に細胞や遺伝子を攻撃し、がんをはじめとするさまざまな病気を招く「酸化ストレス」となってしまいます

がんの初期段階は、イニシエーション(起始段階)と呼ばれますが、これは活性酸素やタバコに含まれるベンツピレンなどの物質によって遺伝子が傷つくことから始まります。その後、正常な細胞が突然変異を起こし、異型細胞と呼ばれる腫瘍に変化します。そして、遺伝子が傷ついた細胞が活性酸素の攻撃を受け続けることで「不死化細胞」となり、やがて悪性のがん細胞へと変化します。がんの転移が起こったり、抗がん剤が効かなくなったりすることも活性酸素が関与しているといわれているほどですので、活性酸素がいかに恐ろしいものかお分かりいただけるでしょう。

がん細胞を自滅させる働き

がん細胞を自滅させる働き

さて、先に述べたように、にんにくはがん予防に効果のある食物として世界から認められた訳ですが、そのがんを予防するメカニズムはどのようになっているのでしょうか。 にんにくを食べると、活性酸素に対抗するための抗酸化作用が高まり、発がん性物質や毒物を無毒化して排泄する肝臓の機能が活発になります。これは、にんにくに含まれるスルフィド類のひとつ、ジアリルトリスルフィド(DATS)と呼ばれる成分の働きです。
しかし、DATSは生のにんにくに元々含まれている成分ではありません。生のにんにくにはアリインという成分が含まれていますが、にんにくを切ったり、すりおろしたりして細胞が破壊されると、アリイナーゼという酵素と反応してアリシンに変化します。さらに、このアリシンをオイルに溶かすと分解・結合してスルフィド類へと変化します。このようにDATSはいくつかの段階を経て発生する成分なのです。

私たちの研究チームでは、このDATSががん細胞の増殖を抑え、寿命のある正常な細胞に戻してがん細胞を消滅させることを解明しました。白血病患者から採取したがん細胞の培養液の中にDATSを加えると増殖スピードが急速に衰え、がん細胞を「自滅」に追い込む作用を示したのです。通常、がん治療においては化学薬剤を使ってがん細胞を自滅に追い込みますが、強力な抗がん剤を使うため、副作用が大きな問題になっています。これは、抗がん剤ががん細胞を死滅させる一方で、消化管の粘膜や骨髄などにある正常な細胞にも作用してしまうからです。しかし、にんにく成分DATSを併用すれば、抗がん剤の投与量を減らして副作用を軽減した効果的な治療ができるのではないかと期待されています。

イスラエルの研究発表

イスラエルの研究発表

さらに近年では、にんにくのがん抑制効果を裏づける新たな研究結果も発表されています。イスラエルの研究者たちによると、アリイナーゼを付けたがん細胞にアリインを加えると、その細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導するという反応を、生体内の腫瘍で試して成功したという報告があります。これはどういうことかというと、アリインが体内をめぐってアリイナーゼのある細胞上でアリシンに姿を変え、その細胞を死滅させたのです。彼らのこの調査では、がん細胞の97パーセントが死滅し、さらに他の正常な細胞への影響はなかったといいます。

このように、にんにくのがん抑制効果は、現在も新たな発見を求めて研究が続けられています。しかしながら、日本人のにんにく消費量は昔に比べて多くなったとはいえ、まだまだ他国に比べて少なく、にんにくの恩恵を受けているとはいえないのではないでしょうか。日本人はにおいに敏感ですし、胃が弱く刺激に強くありませんから、毎日にんにくを食べ続けることは無理があるでしょう。とはいえ、日本には「にんにく卵黄」などのにんにく加工食品で栄養を補うという考え方が発展しています。これからは、にんにく単体だけではなく、さまざまなにんにく加工食品を比較した調査・試験も必要になってくるでしょう。いずれにしても、にんにくががん予防に対する多くの可能性を秘めていることは間違いありません。


有賀豊彦教授

監修:医学博士 有賀豊彦(ありがとよひこ)

日本大学名誉教授/医学博士/健康家族顧問。1980年よりにんにく研究を開始し、1981年にはにんにくオイル中から抗血小板成分としてMATSを発見し、英国の医学誌「ランセット」に発表。以後抗ガン作用の解明を行うなどして、多数の学術論文を発表し、にんにく研究の第一人者として活躍している。

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